海賊被害の実態に関する意見聴取 8月23日衆院海賊対処・テロ防止委員会 日本船主協会会長芦田昭充氏 |
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日本船主協会会長の芦田でございます。
本日は、海賊問題に関する当協会の意見・要望を述べさせていただく機会をいただき、まことにありがとうございます。また、2009年3月よりアデン湾において実施していただいています海賊対処活動により、これまで2千隻を超える商船が海賊の襲撃を受けることもなく安全に航海をすることができました。日本政府ならびに国会議員の皆様をはじめとして、海賊問題に関係されている全ての皆様のご尽力に対しまして、厚くお礼申し上げます。
7月に行われましたジブチにおける航空隊拠点の開所式典には、私以下11名の当協会メンバーが参加させていただきましたが、実際に現地を訪問いたしまして、酷暑の中で海賊対処活動に従事されている自衛隊、海上保安庁、さらには現地大使館の皆様のご苦労の一端に触れまして、心から感謝申し上げると同時に、大変お礼を申し上げてまいりました。
ところで、本日はせっかくの機会でございますので、ソマリア、アデン湾における海賊事件の概況、海運業界における海賊対策の現状、さらには海運業界としての要望について簡単に述べさせていただきます。
まず始めに、ソマリア、アデン湾における海賊事件の概況についてですが、2007年以降に増え始めた海賊事件発生数は、2007年の120件から、2008年には189件、2009年には269件へと急増しています。昨年の2010年も259件とほぼ横ばいながら高い水準で推移いたしましたが、本年に入ってからの海賊事件発生件数は昨年を上回る勢いで増加しており、8月12日現在で179件の事件が発生しています。
また、発生海域で見ますと、各国軍が展開しているアデン湾での発生件数が減少傾向にあるのに対して、ソマリア東方沖、特にオマーン沖のアラビア海での海賊事件数が急増しています。EU軍の調べによれば、8月15日現在17隻の船舶が拘束され、378名もの船員が人質として捕らえられています。
海賊事件の発生数もさることながら、もっとも懸念されるのは、海賊の襲撃海域がアデン湾およびソマリア東方沖から、より北方のオマーン沖、さらには、より東方のインド沿岸に近いアラビア海全域まで拡大し、日本経済の生命線とも言えるペルシャ湾と我が国・極東を結ぶ航路までが海賊の脅威にさらされているという現状であります。
今年に入ってから、5隻の日本関連船舶が海賊の襲撃を受けました。資料の中で、1から5の数字で示しています。5隻のうち4隻がアラビア海で、残り1隻が紅海において襲撃されました。
このうち、数字のカギ括弧1で示したものが、ペルシャ湾に周航していた船舶です。この海域には、油タンカーやLNG、これは液化天然ガスでございますけれども、LNG運搬船などの危険物積載船を中心として、年間約3400隻の船舶が周航しています。この船舶は、本年2月原油約30万トンを満載し、ペルシャ湾より極東に向けて航行中、2隻の小型ボートに分乗し、RPG、これはロケット砲でございますけれども、それと自動小銃で武装した海賊によって、約20分にわたり発砲を受けましたが、現場付近を哨戒中の外国軍艦艇が駆けつけたことによって、海賊の攻撃から逃れることができました。
また、本年3月には、燃料油10万トンを満載した当協会の関係会社が運航するタンカーも海賊の襲撃を受け、いったんはハイジャックされながらも、現場に急行した米軍により解放されるという事件が発生いたしました。数字のカギ括弧3で示された事件です。この船舶はペルシャ湾に周航する船ではありませんでしたが、ペルシャ湾への航路付近で発生した事件であります。
このようにペルシャ湾に周航する船舶の安全が脅かされるのは、我々海運業界にとっても極めて深刻かつ懸念される事態であります。海運各社は、国連や各国軍の監修による海賊対策指針を遵守し、関係先への位置通報、海賊の襲撃に備えた準備や対策に努めるのは当然のこと、危険なアデン湾海域を避けるために、相当な遠回りを覚悟して喜望峰経由で欧州に向かう迂回航路を採用する、あるいは、ペルシャ湾周航船についても、最短航路ではなく、よりインド沿岸寄りな航路を航行するなどして、海賊による襲撃のリスクを軽減するよう努めています。
船舶における具体的な対策としては、有刺鉄線やレーザーワイヤー、放水銃、防弾ヘルメットやチョッキ、夜間用の暗視装置、窓ガラスの飛散防止フィルムといった対策を採用して、海賊の襲撃に備えています。
最近は、世界的な傾向として、シタデル、これは海賊に襲撃された際に船内の特定場所に籠城するための設備であります、このシステムの採用、あるいは、非武装または武装した保安要員を船舶に乗船させる事例が増加しています。また、日本関係船社におきましても、各社の判断により、こうした籠城設備や保安要員を採用する会社が増えている状況にあります。
このうち、武装した保安要員の乗船につきましては、旗国の、旗国と申しますのは船舶の籍を置いている国であります、旗国の法律が適用されるため、これまでは民間人が船内に武器を持ち込むことを禁止する国が数多く存在していました。しかしながら、海賊事件の発生海域が各国艦艇による護衛や哨戒活動が及ばない海域にまで拡大していることから、これまで船内への武器持込には慎重な立場を取ってきた欧州諸国の多くも、これを認める方向に舵を切っています。具体的には、自国の軍隊を武装ガードとして乗船させる、あるいは民間の武装ガードが自国籍船に乗船できるよう所要の法改正を実施していると認識しています。
なお、わが国においては、民間人による船内への武器の持ち込み、すなわち民間の武装ガードを日本籍船に乗船させることは認められていません。
以上、簡単に、ソマリア、アデン湾における海賊事件の概況、海運業界における海賊対策の現状についてご説明させていただきました。
海運各社としましても、海賊事件の増加、凶悪化に対応するため、できる限りの海賊対策を実施しているところではありますが、船舶における自衛措置にはおのずと限界があります。特に、ペルシャ湾に周航する船舶の安全が危惧される状況にあることから、スリランカ南端からペルシャ湾、ホルムズ海峡に至る航路を含む、インド洋およびアラビア海の全海域において、有効な海賊対処行動が実施できるよう、行動海域を拡大することが必要との観点から、3点要望させていただきたいと思います。
お配りしている資料、要望事項にあります通り、一点目は、護衛艦または補給艦の追加派遣であります。二点目は、日本籍船への武器持込が認められていない現状から、日本籍船への公的武装ガード、自衛隊員、海上保安官等でございますけれども、この乗船、これが不可能な場合は、民間武装ガードの乗船を可能とする措置の実現であります。最後に、中長期的な課題となりますが、海賊事件の根本的な解決を図るために、ソマリア国の安定化に向けた国際的な支援が必要不可欠なることから、我が国としても積極的な支援をお願いしたいと思います。
また、当面は各国による海賊対処活動、艦艇哨戒機等の派遣でございますけれども、この継続・強化および国連や国際海事機関における取り組みなど、海賊問題における国際的な取り組みの強化などに関しましても、引き続き我が国のリーダーシップに期待したいと存じます。
以上、当協会の要望を申し上げました。実現に向けてご検討いただけますよう、お願い申し上げます。ありがとうございました。